辰子姫伝説
たつこひめでんせつ
昔、田沢村(仙北市)に辰子という娘が母と暮らしていた。
辰子は近隣でも評判の美人であったが、いつしかその美しさを永遠にとどめたいと願い、100日観音堂に通いついに霊泉のお告げを得た。
辰子は霊泉を探しに3人の娘と共に山に入ったが、川で獲った魚を焼いているうちにがまんできず、ほかの娘たちの分まで食べてしまった。
すると激しい渇きに襲われ、水を求めるうちに泉を見つけていつまでも飲み続け、気がついた時には竜に化身していた。
辰子は、激しい豪雨と山崩れで現れた湖に入り主となった。竜になった辰子を見て逃げ帰った娘たちの話を聞き、辰子の母はたいまつを手に会いに行った。
湖のほとりで母が泣き叫ぶと辰子が現れ、母に好物の魚をおくることを約束して別れを告げ、湖の底に再び戻っていった。
母は嘆き悲しみ、手にしていたたいまつの燃え残りを湖に投げ捨てた。すると燃え残りの木の尻は魚に変わった。
これが国鱒(くにます)で別名を「木の尻鱒」ともいい、母の家では湖からきた国鱒が絶えることがなかったという。
以上が大体のあらすじである。
八郎太郎伝説と辰子姫伝説は、のちに結びついて「三湖伝説」が成立したといわれている。
すなわち、八郎潟の八郎太郎の元に鴨が渡ってきて、辰子姫が会いたがっていることを伝える。
八郎太郎が人間に化身して田沢湖を訪ねに行くと、途中で南祖坊がこれを妨害しようと待ちかまえていた。
八郎太郎は今度こそ南祖坊に打ち勝って、ついに辰子に会うことができた。
以後、八郎太郎は春から秋は八郎潟で暮らし、冬になると田沢湖で辰子と暮らすようになった。
そのため2人が暮らす田沢湖は冬でも凍らず、一方、冬の間、主のいない八郎潟は凍りついて人が渡れるようになった。